Masuk俺は自分のコミュ力の無さに打ちひがれていた。
家族相手にすらまともに話せないなんて……。「お兄ちゃんは会話には何が必要かわかる? って聞くまでも無いか」
再び言葉のナイフが俺を切り刻む。
「何気ない会話にも相手や周りの事を考える必要があるの。相手が興味の無い話題を振っても相手は食いつかないし、その周りの人も同調出来ない。だから先ずは相手や流行りについて知る必要があるんだよ。流行りの話題だったらリア充なら当然把握してるしね」
という柚希からの有り難いお言葉を頂いた。
「でもどうやって相手が興味が有るか無いか見分けるんだ?」
「ん~、お兄ちゃんの場合は観察から入った方がいいかな。クラス内を観察して誰と誰が仲がいいのか、クラスでどんな話題が流行ってるのかを観察するの」観察なら得意だ。
伊達にいつも休み時間一人で過ごしてないからな。 あれ? なんだか悲しくなってきた。「あと、喋る時はキチンと自信を持って喋る事! 携帯ショップの店員の話ししたでしょ? 自信なさげに喋ってもスルーされるか笑いものになるだけだからね!」
「はい。肝に銘じます」とは言っても喋り慣れてないから自信がもてないんだよなぁ。
自信持って喋った事がスベッたらどうしようとか考えてしまう。「その事を踏まえてもう一回やってみよう!」
それから何回も挑戦した。 柚希の学校の事や部活の事、友人や高校でやりたい事などを話題に出して、何度も繰り返し、何度もダメ出しを食らう。それを何度も何度も繰り返した。「う~ん、及第点ってところかな」
「やったー! ってか疲れた~」やっと柚希からオッケーを貰えた。
「お兄ちゃんにしては頑張ったね」
「まぁな。リア充になる為だしな」俺がそう言うと、柚希は少し沈んだトーンで
「私が虐められない為に……だよね?」
俺は一瞬言葉に詰まるが
「まぁ、そうだな」
と返す。
すると「それは嬉しいんだけど、せっかくリア充目指してるなら、『彼女を作る!』っていう目標があったほうがいいんじゃない?」
「か、彼女?」 「そう! 彼女が居てこそ真のリア充でしょ!」彼女かぁ。
俺には一生出来ないと思ってたけど、リア充になれば出来るのだろうか?「よし! お兄ちゃんの最終目標は『彼女を作る!』ってことで!」
「あ、あぁ。頑張るよ」 「もっと自信持って!」 「リア充になって彼女を作ってやるぜ!」 「頑張ってね!」柚希を不安にさせない為に力強く宣言する。
「そうすると女子との会話はもっとスムーズに話せた方がいいかぁ。とすると……」何やら柚希がブツブツ独り言を言い出した。
心配になって「どうかしたか?」と声を掛けると「ちょっと待ってて!」
と言い、スマホを持って自分の部屋に行ってしまった。
中々戻って来ないので自主トレをする事にした。 表情筋を鍛えるトレーニングだ。 このトレーニングは『あいうえお』を口を大きく開いて動かすというトレーニングだ。 『あいうえお』を大げさにやる事で顔の筋肉全体を鍛える事ができるらしい。 1日3回20分やれと言われているので、今のうちにやっておこう。 俺がトレーニングを開始してから10分経った頃だろうか、階段を勢いよく降りる音が聞こえ、リビングのドアが勢いよく開かれた。「お待たせー!」
何だか機嫌が良さそうだ。
「どうした? テンション高くない?」
と尋ねると
「会話のトレーニングって私としかしてないじゃない?」
「そうだな」 「だ・か・ら! 助っ人を呼ぶことに成功しましたー! パチパチ」なんだ、それでテンション高かったのか。
って今何て言った? 助っ人?
「助っ人ってどういう意味?」
柚希はキョトンと小首を傾げ
「助っ人は助っ人だよ。私の親友にお兄ちゃんの話し相手になって貰いました!」
………。
「ええええぇぇぇぇ?!」
「お兄ちゃんうるさい!」 「うっ!」いやいや、柚希以外の女子と会話するだって?
流石にまだ早いようなきがするんですけど……。「それで、会話に必要な物覚えてる?」
「えーっと、相手の情報だよな。後は流行りものとかだっけ?」 「そうだね。あとは話す際の言葉の抑揚と姿勢に口角を上げる事。つまり、今までやって来たもの全てが必要なのです! 練習にはうってつけでしょ?」確かに今までやって来た特訓全てが必要だろう。
だとすると重大な事が欠けている。「その親友の子の情報が一切ないんだけど……。名前すら知らない」
俺のその言葉を受けて柚希は「ちっちっち!」と人差し指を振る。
「今からその子の情報を教えるから明日までに全部暗記すること! 明日の午後に家に来てもらう事になってるから!」
「明日!急すぎるだろ。それに午後から来るならそれまでに覚えればいいんじゃないか?」俺が至極真っ当な意見を言うと、またしても「ちっちっち!」と指を振り
「午前中は出かけなければならないから今日中に覚えてね」
「それって柚希の都合だろ?俺は関係ないじゃん!」 「何言ってるの?お兄ちゃんと私とで出かけるんだよ」 「ど、何処に行くんだ?」俺の問いかけにニヤリと笑って
「それは明日のお楽しみ♪」
と、嗜虐的な笑みを見せるのだった。
明日は長い一日になりそうだ。水樹の語りが終わり部屋に静寂が訪れる。 その静寂を水樹自ら破る。「と、まぁ昔の俺は沙月に対して過保護すぎる程過保護だった。その所為で沙月とユウ姉を苦しめた」 そう言って水樹は二人に向き合い「本当に……ごめんなさい」 と言って深々と頭を下げた。 それを見た沙月と友華さんは「ハイハイ分かったから。一体何回謝るのよ」「そんなに謝らないで? 昔みたいに仲良くしよ」 沙月と友華さんが笑いながら言うと、水樹は「ありがとう」 と言ってもう一度頭を下げた。 そして今度は俺に向き直り「話を聞いて分かっただろ。あんな噂が流れたのも全部俺の所為なんだ」 水樹は一拍置いて「だから沙月の事を攻めないでほしい。もし今後何かあっても全て俺の所為だ」 俺の目を真っすぐ見て言う。 俺はそれに対し「沙月は2度とそんな事しない。水樹だってわかってるだろ?」 少し強めに言う。 すると沙月も「そうだそうだー! まだ私の事信用してないの!」 と水樹に文句を言う。 だが、その表情は責め立てる様な物ではなく、笑っていた。 俺と沙月の言葉を受け、水樹はもう一度頭を下げて「悪い……」 と謝るが、沙月は謝罪に対して「もー、さっきから謝ってばっかりなんだから! だけど……ありがとね」 色々あったけど、沙月自身、自分の為にしてくれている事は分かっていたのだろう。 だけど、思春期真っ只中だった沙月は素直になれなかったのかもしれない。 そして今日、水樹の言葉と謝罪を聞いてやっと素直になれたのかもしれない。 だからこその感謝の言葉なのだろう。 沙月が感謝の言葉を口にした。 俺も水樹には感謝をしている。「俺かもお礼を言うよ。沙月と出会わせてくれてありがと
気が付けば男が倒れている。 これは……俺がやったのか。 沙月の腕が払い除けられた後の記憶が無い。 っ! 沙月は? 沙月は無事なのか? 視線を彷徨わせると、地面にへたり込んで泣きじゃくっている沙月の姿があった。 沙月の傍に行き声をかける。「沙月! 大丈夫か?」 言いながら沙月の肩に触れようとすると「触らないで!」 沙月が俺を睨んでいる。 どうして? なんで俺を睨むんだ……。「沙月……」「どうして……どうしてこんなヒドイ事出来るの!」「俺は沙月を守らなくちゃいけないんだ」「だからって……何もここまでしなくてもいいでしょ!」「俺は沙月の兄代わりで父親代わりなんだ。だから沙月を傷つける奴は許せない」「そんなの……そんなのは小さい頃の約束じゃない! 私はもう子供じゃない!」「なんだと―――」 沙月の言葉でまたもや頭に血が上っていく。 沙月に詰め寄り手を伸ばそうとした時「おい! お前ら何やってるんだ!」 偶然通り掛かったか、俺達の言い争いを聞いた誰かが呼んだのか。 数人の教師が怒鳴りながらこちらに走って来る。 教師は倒れている男を見ると 「すぐに保健医を呼んできます」 と一人の教師が走って行く。 すると残った教師は俺を囲み「お前、自分が何をしたか分かってるのか!」「取りあえず進路指導室まで来い」 と言って無理やり腕を掴み連行しようとする。 だが俺は何も悪くない。「宮田君は私に告白しただけなんです……それなのに水樹先輩が゛……」「っ! 沙月、何言ってるんだよ」「宮田君は
沙月の噂の原因が水樹にあると聞かされた。 正直、何故そこで水樹が出て来るのか見当もつかない。「水樹が原因ってどういう事だ?」「疑問に思うのは当たり前だな。説明すると長くなるけどいいか?」 と聞かれ「ああ、大丈夫だ」と返すと「そうだな、事の始まりは沙月が中学2年で俺が3年の時だな」「結構昔なんだな」 中学時代に何があったのか興味が出る。「同じ中学だったんだけど、当時はこの家によく遊びに来てたんだ」「そうそう、あの時は毎日家に来てたよね~」 と水樹は昔の事を語ってくれた。 * * * * * *「タカくん、ココア飲む?」「あぁ、サンキューユウ姉ちゃん」 従妹の家に行くといつもユウ姉ちゃんが世話をしてくれる 叔母さんが仕事で遅く帰ってくるからユウ姉ちゃんが母親代わりになっていた。「はい、お待たせ」「いつもありがとうユウ姉ちゃん」「それはこっちのセリフだよ。気にかけてくれてありがとう」「叔父さんが亡くなった時に沙月と約束したから。お礼なんていらないって」 叔父さんは俺達が小さい頃に交通事故で亡くなった。 当時の沙月は父親っ子だったから相当ショックを受けて塞ぎ込んでた。 その時沙月と約束をした。 俺が沙月を守る。父親や兄の様に振る舞って沙月を守ると約束した。 中学も学区は違ったけど沙月と同じ中学に進学した。 高校もユウ姉ちゃんが通ってる咲崎高校に通う予定だ。「それにしても沙月のやつ帰って来るの遅いなぁ」「今日は委員会があるって言ってたよ」「そうなんだ」 時刻は18時過ぎ。日が落ちるのも早くなり外はすっかり暗くなっている。 心配になった俺は外で待とうと玄関を開けると「今日は送ってくれてありがとう」「大した事じゃないよ、それじゃあバイバイ」「バイバ~イ」 はぁ、今日もか。 沙月は俺に気づいたらしく
俺の家から国道に出て真っすぐ走っている。 バイクに乗るのは初めてだが、こんなに寒いとは思わなかった。 水樹の言う様に暖かい服装をしておいて良かった。 しばらく国道を走っていたが、いつの間にか市街地を走っていた。 そして段々と住宅地に入って行く。「何処に向かってるんだ?」 と声を大きめに出して聞くが「なに? 何か言ったか?」 と、やはり走行中に会話は難しいみたいだ。 しばらく住宅街の中を走ったと思ったら唐突に止まった。 バイクから降りて水樹に尋ねる。「ここは何処だ?」「目的地はそこの家だよ」 と言って水樹が指刺した家を見る。 すると表札には『桐谷』の文字が刻まれていた。「もしかして沙月の家か?」「正解、ちょっと待ってろ、バイク仕舞ってくるから」 と言って水樹は沙月の家の車庫に消えていった。 まさかこんな形で沙月の家に来る事になるなんて思わなかった。 しばらくして水樹が戻ってくると、迷わずインターホンを押した。 それを見て「ちょ、何してんだよ」「何って家に上げて貰うんだよ」「それは分かるけど、心の準備が出来てない」「そんな物は準備するようなモンじゃないけどな」 と、やり取りをしていると「どちら様ですか?」 とインターホンから返事が返ってきた。 すると水樹は「オレっす。孝弘っす」 と水樹が答えると、家のドアが開いた。 中から出てきたのは友華さんだった。 「どうも、お久しぶりっす」「久しぶりです。今日はどうしたんですか?」「ちょっと沙月に用があって。帰ってきてます?」「沙月ならさっき帰ってきましたよ……友也君!?」 ようやく俺の存在に気づいた友華さんが驚いている。「どうも、お久しぶりです」「
教室に行くと田口がテンション高く喋っていた。 何があったのかと近くまで行くと「いや~、マジでパないっしょ~!」「いや、大袈裟だろ」「でも羨ましい~! 俺もバイク買おっかな~」 どうやらバイクの話をしている様だ。「おっす」 と挨拶すると、水樹が「丁度いい所に来た、友也に話があったんだよ」 と言い俺の横に来る。「話ってなんだ?」「俺さ中型のバイク買ったんだよ」「あ~、だから田口のテンションがおかしかったのか」「アイツはいつもおかしいけどな。それで友也に今日付き合って貰いたくてな」「ん? 付き合うって何を?」「まぁ簡単に言えばツーリングだな」「いやいや、俺は免許持ってないぞ」「分かってるって。2ケツで行くんだよ」「俺なんかでいいのか?」 というやり取りをした後、水樹は俺にしか聞こえないトーンで「沙月について話しておきたくてな」「沙月?」「ああ。俺と沙月が従妹同士ってのはこの間話しただろ?」「あれはビックリしたよ」「沙月の彼氏になったお前には話しておかなきゃならない話があるんだ」「……わかった。付き合うよ」 沙月に関しての話なら聞かない訳にもいかない。 俺が了承すると「それじゃ、学校終わったら友也の家に迎えに行くわ」「オッケー」「あっ、なるべく風を通さない暖かい格好に着替えておいてくれ。この時期のバイクはかなり寒いからな」「分かった」 と水樹との会話が終わるのと同時に予鈴のチャイムが鳴った。 毎度の如くチャイムが鳴ると同時に担任が入って来る。「あ~、今日は大事な知らせがあるー。知っている奴もいると思うが、近くで女子学生が監禁されるという事件があった。犯人は未だ捕まっていないらしい」 知らなかった生徒もいたらしく、教室中がざわめく。 担任は動揺してるざわつい
皆でファミレスに行ってから二日が過ぎた。 最初こそは揶揄われたりしたが、今はいつもどおりに過ごしている。 だが、今までと違う点がある。 毎日行っていた柚希との会議が無くなったのだ。 俺に彼女が出来たから必要無くなったのかと思ったが、そうでは無かった。 一度なんで会議が無くなったか聞こうと柚希の部屋を訪ねたら、中から柚希の話声が聞こえた。 聞こえてくる会話で彼氏と話しているんだという事が分かった。 会議が無くなったのは俺に彼女が出来たからではなく、柚希に彼氏が出来て俺に構う時間が無くなっただけだろうと結論づけた。 まぁ好きな人を優先してしまう気持ちは分かる。 俺も沙月とは結構長電話してしまうからな。 だけど、兄としては少し寂しい気持ちもあった。 以前までは会議の時間だったが、今はアニメを見る時間になっている。 大体は録画した物を消化している。 今日も録画していたアニメを見ようとテレビを付けると、臨時ニュースがやっていた。 いつもならスルーするのだが、ニュースの内容が見逃せなかった。 アパートの一室で女子高生が監禁されていて未だに犯人が捕まっておらず、しかも犯行のあったアパートが俺の地元だったからだ。 妹を持つ身としてはやはり心配してしまう。 ニュースを見ているとLINEの通知音が鳴った。 確認すると楓からで、内容は〈話したい事があるから明日早めに学校に来て欲しい〉との事だった。 俺は〈分かった〉と返事を返し、明日の為にアニメは諦めて寝る事にした。 翌日、いつもより早く登校して理科室に向かう。 教室に入ると既に楓が居たが、表情が優れない。「おはよう」「おはよう、急にごめんね」「大丈夫だよ。それより話って? 何か困った事でもあった?」 と聞くと、楓は少し言いにくそうに「柚希ちゃんに彼氏が出来たのは知ってる?」 と聞いてきた。 柚希に彼氏が出来た事は誰にも言っていな







